「WHOがゲーム中毒を精神病に決定」は正しくない
先日Twitterにて、「ゲーム依存症」をWHOが国際疾病分類に登録へ、というライブドアニュースがフォロワーさんのリツイートで何度か流れたので見に行ってみたのですが、正直、微妙な違和感が……「うぅ~ん……個人の感想っぽいし、どこまで正しいのかな? バイアスかかってないか?」という感じだったので、自分で調べてまとめることにしました。
【追記】こちらの記事は昨年12月のものです。今年になってから朝日新聞やテレビなどで取り上げられ始めましたが、大部分は変更ありません。
※ 以下まとめたものですが、機械翻訳を介したものなので、正確性については保証できません。
上記ニュースソースは2017年12月20日に投稿されたイギリスの科学情報サイト「NewScientist」の以下の記事です。
Video gaming disorder to be officially recognised for first time
内容は極めて短いもので、WHOが国際疾病分類にゲーム障害を含めると検討していること、正式名称は未定であること、ゲーム障害と判断するためのさまざまな基準が列挙されていること、というのが記述の「ほぼすべて」です。
ForbesやBusinessinsider、Independent、NewsweekやInvenなど、ゲーム情報専門のところもそうでないところもこのニュースを取り上げていますが、ざっと目を通した印象としては、まだ「草稿段階」であることや「反対意見も多い」ことなどを併せて記載し、わりと冷静な記述に終始しています。あと、そこそこの長さで様々な情報を提供しているあたりが……まぁ、私が最初に目にした記事とは「違うな」っていう……(笑)
【追記】1月5日の世界保健機関(WHO)報道官の発表によれば、2018年に「ゲーム障害」(ゲーム中毒・ゲーム依存症)を「国際疾病分類」に加える見通しだそうです。もっとも、未だ反対意見も多いようです。
「ゲーム障害」 疾病として定義へ WHO
WHO「ゲーム障害に関するきちんと文書化された多くの証拠があります」
国際疾病分類(ICD)とは何か
では、話題になっている国際疾病分類(ICD)とはそもそも何でしょうか。
ざっくり言うと、世界保健機関(WHO)が発表している、「病気の判断マニュアル」のことで、正式名称は「疾病及び関連保健問題の国際統計分類」(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems)です。……長い!
日本もこの判断マニュアルを使っていて、厚生労働省のサイトに記述があります。
「疾病及び関連保健問題の国際統計分類:International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems(以下「ICD」と略)」とは、異なる国や地域から、異なる時点で集計された死亡や疾病のデータの体系的な記録、分析、解釈及び比較を行うため、世界保健機関憲章に基づき、世界保健機関(WHO)が作成した分類である。
最新の分類は、ICDの第10回目の改訂版として、1990年の第43回世界保健総会において採択されたものであり、ICD-10(1990年版)と呼ばれている。
新しい版であるICD-11が来年2018年に発表される予定で、そのための国際会議や議論も行われてきました。1990年に発表されて以来、28年ぶりに新しくなりますが、正確には2003年にICD-10改訂版が発表されていて、日本はこれを準拠しています。
ゲーム障害は日本が決めたものではありませんので、「日本はゲームを世間的に認めていない」とか「だから日本はe-spotsが発展しないんだ」といった批判は「的外れ」です。「だからマスゴミは」という呟きも見かけましたが、前述通り28年ぶりの改訂ですから、マスコミが多少騒いで決まるシロモノでもありません。
ICD-10は全部で22章ありますが、草稿によれば、ICD-11は26章に増えるようです。
ICD-11ベータ版 (死亡率と罹患率統計)
https://icd.who.int/dev11/l-m/en
その第6章に、今回話題となった「ゲーム障害」が含まれています。
なお、このベータ版(草案)のトップページには、以下の注意事項が記載されています。
NOT FINAL
(最終決定ではありません)
updated on a daily basis
(毎日更新されます)
It is not approved by WHO
(WHOによって承認されたものではありません)
NOT TO BE USED for CODING except for agreed FIELD TRIALS
(社会実験などに使用しないでください)
これを踏まえた上で、内容について見ていきたいと思います。
「ゲーム障害」Gaming disorderの定義
第6章「精神、行動または神経発達障害」(06 Mental, behavioural or neurodevelopmental disorders)
ここでは発達障害、統合失調症、解離性疾患、摂食障害や排せつ障害などが分類されていますが、さらにその中の「物質の使用または中毒性の行動による障害」(Disorders due to substance use or addictive behaviours)に「ゲーム障害」(6D11 Gaming disorder)があります。
「物質の使用または中毒性の行動による障害」は、「物質使用による障害」と「中毒性行動による障害」の大きく2つに分かれており、前者にはアルコールや大麻、コカイン、鎮静剤などによる障害が書かれています。
後者が「ギャンブル障害」と「ゲーム障害」で、そのほかにももう2つほど記述が追加されそうです。
「ゲーム障害」はさらに3つに分かれており、「ゲームの障害、主にオンライン」「ゲームの障害、主にオフライン」「ゲームの障害、不特定」となっています。
さて、気になる「ゲーム障害の定義」です。
「ゲーム障害」は、オンラインまたはオフラインでの持続的または反復的なゲーム行動によって特徴付けられる。
1、ゲームによって諸々コントロールを失った状態(ゲームの継続時間など)
2、ゲームが他の生活上の利益および日常活動よりも優先される
3、否定的な結果の発生にも関わらず、ゲームを継続する、または拡大させる
行動が、個人や家族、社会、教育、職業または他の重要な部分において重大な障害をもたらすほど深刻である。
すべての診断要件が満たされ、症状が重篤な場合、(期間短縮の可能性はあるが)診断を割り当てるのに(ゲーム障害と診断を下すのに?)少なくとも12か月間を要する。
ゲームを12か月以上プレイしている場合、という意味だと思われます。つまり一時的にハマった状態を「病気」とするものではない、ということですね。
大体、このようになっています。機械翻訳なので、ちょっと分からないところもありますが……。
なお、除外事項として「危険なゲーム」(Hazardous gaming)が挙げられています。
こちらは「健康行動に関連する問題」の「有害物質の使用」に分類されており、個人や周囲の他人へ、身体的または精神的に危害を加える危険性について触れられています。
各誌の反応や意見など
これを報じた各誌の記事を見ると、WHOによる今回の検討に賛成寄りなところ、そうでもなさそうなところ、色々ですね。
「Gaming Disorder」でキーワード検索すれば結構引っかかるので、気になる方はご自身でお調べいただくとして……。
多くの記事には、ゲームをプレイする大部分の人は障害とは関係が無い、とし、ゲームにはメリットもデメリットも存在する、と書かれているようです。
INVENによれば、WHOでプログラムに関わるポズニャック博士は「ゼルダやマリオをプレイするほとんどの人が中毒の経験はない」とし、「ゲーム中毒の診断基準は慎重に検討した」「ゲーム障害という状態を明らかにするために10年研究した」とも語ったそうです。
また、コペンハーゲンIT大学などの26人の教授は「ゲーム障害」の項目はICD-11から削除する必要がある、と公式に発表しているそうです。
アメリカ心理学会(American Psychological Association)をはじめ、世界中でゲームの影響について研究が行われており、ゲームの功罪については正直「まだまだ議論途中」という印象です。
Video Games Play May Provide Learning, Health, Social Benefits, Review Finds
ゲームよる害は無視すべきではないが、学習、健康、社会的スキルが向上する肯定的な可能性がある、とも書かれています。
ゲームから得られるものは、スポーツや芸術、クラブ活動などから得られるものと大差ない、という研究結果もあります。
確かに、メリットもあるがデメリットもある、程度の事しか今は言えないだろうな~と思います。
ゲームの子供への悪影響がしばしば問題となっていますが、フォーブスによれば、ゲーマーの平均は35歳の男性だそうです。2009年のデータなので少々古いですが。
Do You Have Video “Gaming Disorder,” A Newly Recognized Mental Health Condition?
フォーブスの記事は続けて、アルコール中毒のテストをゲーム中毒にも利用したらどうか、と言っています。
CAGEテスト
http://www.kirin.co.jp/csv/arp/self_check/cage.html
「飲酒」を「ゲーム」に置き換えればいい、ということですが……これだと私、4つとも当てはまってしまいますね(笑)
4Gamerによる続報
WHOが提案する「ゲーム依存症」の国際疾病分類への登録について,米ゲーム業界団体のESAが異議
おおむね「ゲーム障害」と紹介されることが多いようですが、日本での正式名称もまだ決まっていません。
いずれにせよ、この件はまだ「草案」段階です。「疾病」になるかどうかもわからず、その「基準」もまだ分かりません。
ほかの様々な中毒同様、軽視されるものではありませんが、だからといってなんでもかんでも批判すればいいものでもないでしょうし、「病気だから」と開き直るものでもないでしょうね。
それでは、以上です。
その他、参考にさせていただいた記事
【取材】世界保健機関、「ゲーム中毒」公式病気に分類する(韓国語)
‘Gaming disorder’ may get classified as a mental health condition — here’s what that means(英語)
コメント