現代のようにクーラーや扇風機の無い時代。芝居小屋は夏ともなればたいそう暑いので、役者などお芝居の関係者はお休みをとるのが普通でした。
そんな時こそ、普段あまり出番のない役者さんたちのチャンス!
しかしネームバリューではお客を呼べません。
ならば、低価格で夏らしい演目を……と工夫を重ねて、怪談話や水狂言(実際の水を使って涼をとる芝居)が育まれていった、ということのようです。
夏芝居とか涼み芝居とか夏狂言とか呼ばれました。
さて。
現代ではそういう事情もありませんので、納涼とか気にせず読んでもいいでしょう。
怪談の代表格、四谷怪談、皿屋敷、牡丹灯籠……は置いておきまして。
昨今人気の「怪談実話本」をおすすめします。
「怪談実話本」は名前の通り、「誰かが体験した怖いお話」をまとめた本です。フィクションであっても、一応その体裁です。
基本的には、短い怪談話がいくつも収められていて、手軽に読むことができます。
新耳袋-現代百物語
全10巻とボリュームたっぷりですが、お話の性質上、どこから読んでも問題ありません。
「怪談実話」のさきがけとなった本です。
1990年がスタートなので、そこから案外年数が経っていますが、現在も「怪談実話ならこれ!」と言えるほど、スタンダードなシリーズです。
一気に第1夜から第5夜までと、第6夜から第10夜まで読める合板本版電子書籍もあります。
(セブンネットショッピング)
後続のものとして、「隣之怪シリーズ」、「九十九怪談シリーズ」も発売されています。
怪談実話 黒い百物語
最近ではTVドラマ「侠飯」の原作者としてのほうが有名かもしれません。
公式レシピ本なんてあるんですね……。
こちらは小説の方。
マンガ化もされています。
ホラー小説とアウトロー小説、一見かけ離れたジャンルを手掛ける珍しい作家さんです。
「本当にありそう、リアルに怖い」と評判のシリーズです。
山の霊異記 赤いヤッケの男
「山の霊異記」シリーズとして出ています。
「山にまつわる怪談」に特化した本で、「山岳怪談」というジャンルです。
昔の日本では、山は「異界」でした。
古くから、数々の「怪異」が語り伝えられています。
山だからこそ、の怪異ですから、「自宅で読む分には安心」と思えます(笑)
(「山怪 山人が語る不思議な話」も、マタギや炭焼きなど山で暮らす人々から聞いた怪異をまとめた山岳怪談としておすすめです。)
「(山怪 続編) 山怪 弐 山人が語る不思議な話」、「山怪 参 山人が語る不思議な話」も出ています。
百物語―実録怪談集
「事実をそのまま載せる」という確たるスタンスで綴られています。
第10巻まであり、その後「霊は語りかける―実録怪談集」へと続きます。
「シリーズ途中から作者がどんどん体調を崩して、共著になるのが一番怖い」と思いました……。
こちらの作家さんも、ほかにSF小説や時代小説など、幅広く手掛けられています。
小松左京賞 第一回受賞作品です。
拝み屋郷内 怪談始末
怪談実話系の作者というのは、たいてい巻が進むと、怖いお話の収集に四苦八苦されてくる、という印象があります。
ですが、こちらの作者は「拝み屋」を生業とされていて、その手の体験には事欠かないご様子。
「ほとんど自叙伝ではないか」という、作者自らの体験談が大きなウェイトを占める、ちょっと毛色の変わった怪談実話本です。
藤田富主演で2018年にドラマ化もされました。
ドラマ「拝み屋怪談」
全国怪談 オトリヨセ
2巻まで出ています。
各都道府県別に怖いお話を集めた本になっています。
自身の出身地やゆかりの地の怪談は、ひときわ身近に感じられるのではないでしょうか。
私も「ああ、あのあたりのお話なのか」と、ローカル感に浸りながら読ませてもらいました。
旧談
こちらは、ぜひ先に、ほかの「怪談実話本」をいくつかご覧になった後に読んでいただきたい本です。
元は江戸時代中期から後期にかけて書かれた「耳嚢」という随筆の中から、不思議なお話を選りすぐって、現代の怪談実話風に書きなおしたもの。
元にした「耳嚢」のお話自体も収録されているので、どのように変化させたかを読み比べることができます。
それぞれのお話の内容そのものも楽しめますが、「怪談実話とはこういう手法で書かれている」というのがとてもよく分かる作品になっています。
京極夏彦氏の手腕をご堪能ください。
現代の民話 あなたも語り手、わたしも語り手
こちらを「怪談実話本」に入れるのは少し違うかもしれません。
内容としては、「フィールドワーク」や「民俗学」に近い印象です。
ですが、私自身がこのジャンルに興味を持つ切欠となった本として、勧めさせてください。
(実際はすでに絶版になっている松谷みよ子氏の以下の書籍ですが……)
夢の知らせ、臨死体験、生まれ変わり、学校の怪談……。
これらの内容は、「怪談実話」に通じるもの。
数々の怪談実話本よりもさらに素朴な語り口で、日本各地の「現代の民話」が、丁寧に丁寧に収集されています。怖くはないかもしれませんし、何気ない描写の中にふと恐怖を感じるかもしれません。人の営みというものを考えさせられます。
さいごに
教養書、ビジネス書、生活実用書を中心に発行している「だいわ文庫」。山、アウトドア、自然などに関する本を出版してきた「山と渓谷社」……。
今まで「ホラー」とは縁遠かった出版社が、「怪談実話本」に次々と本格参入してきています。
私自身、「トイレの花子さん」や「学校の怪談」が流行している頃は「子供向け」と思って手に取っていませんでしたが、その多種多様ぶりに認識を改め、いまやすっかりハマっています。
まだ食わず嫌いなあなたも、ぜひ……。
ちなみに欧米だと、「幽霊の季節はハロウィン」なのだそうです。
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